新型コロナウイルス感染症 クラスター対策専門家 記者意見交換会 2020年4月15日 西浦博教授

新型コロナウイルスクラスター対策専門家のTwitter のアカウントで、

今朝「新型コロナウイルス感染症 クラスター対策専門家 記者意見交換会」の第一回目を開催しました。 クラスター対策専門家の現状分析や提言を皆さまに広く知って頂くために、今後も定期的にメディア向けの意見交換会を行っていく予定です。

と 4月15日にお知らせされましたが、その会見の動画がどこにもアップされていません。マスコミを通すと、一部だけ切り取られたり、政府の方針に対する批判材料に使われるだけで、専門家の方が言わんとすることが「正確に」国民に伝わりません。同じことを考えておられる方も多く、動画の公開を望むコメントが多く寄せられています。

会見を要約したスポーツ報知の記事を引用しますと、

厚労省クラスター対策班で北海道大の西浦博教授(理論疫学)が15日、会見し、感染防止対策を全く行わない場合、国内の重篤患者は約85万人に上り、うち約42万人が死亡するとの試算を公表した。またウイルスの流行を長期化させないために、人と人との接触の「8割減」を強調した。

衝撃的な試算が公表された。西浦氏は「感染防止対策を全く行わなかった場合のもの」と前置きし、「人工呼吸器などが必要となる重篤患者は、15〜64歳で約20万人、65歳以上で約65万人となり、うち49%が死亡する」と明らかにした。これに基づくと、重症患者の約42万人が死亡する。欧米の感染状況をもとにした「最悪のシナリオ」だが、現在の日本の感染状況や、防止対策が行われた場合の重篤患者数や死者数については「調査中」とした。この試算を公表した理由については「どれくらい重篤化や死亡するリスクがあるかをみなさんに知っていただき、感染防止対策を行ってもらいたかった」と話した。

すでに「緊急事態宣言と新型コロナウイルス感染症拡大のシミュレーション COVID-19」でも引用した、Imperial College London の WHO Collaborating Centre for Infectious Disease Modelling; MRC Centre for Global Infectious Disease が出した「Report 12 – The global impact of COVID-19 and strategies for mitigation and suppression」と題する報告、それに添付されたデータ、Data on global unmitigated, mitigated and suppression scenarios: Imperial-College-COVID19-Global-unmitigated-mitigated-suppression-scenarios.xlsx に記された各国毎のシミュレーションの数字があり、けっして「衝撃的」なものではありません。

「日本は何も対策しない場合、ウイルスの基本再生産数 Ro : Basic Reproduction Number(感染力のある 1人の感染者が、免疫の獲得もしくは死亡によりその感染力を失うまでに何人の未感染者に伝染させたかの人数)が最も高い予想値 3.3 であれば、人口約 1億 2600万人のうち、約 83% の約 1億 500万人が感染し、入院ベッドが約 580万床必要、約 195万人が集中治療を必要とし、約 147万人(死亡率約 1.4%)が亡くなるとの予測です。対策を出来る限り十分に行い、ウイルスの基本再生産数が最も低い予想値 2.4 でも、約 39%の約 4900 万人が感染し、入院ベッドが約 154万床必要、約 31万人が集中治療を必要とし約 23万人(死亡率約 0.5%)が亡くなるとの予測でした。

西浦氏の試算は、オーバーシュート(患者の爆発的急増)が起きた欧州の事例を基に、1人の感染者が平均2・5人にウイルスをうつすと仮定したもの。

今回、西浦博教授は Ro を 2.5と想定して試算された様で、約 85万人が集中治療を要し、約 42万人が亡くなるとの試算です。最近の欧米でのオーバーシュートによる死亡率の高さが、シュミレーションの要因に組み込まれているので、前述の数字より若干多めの予測になったのか、出席した記者は質問してくれていないのでしょうか。

政府は7日の緊急事態宣言以来、人と人との接触を「最低7割、極力8割削減」を呼び掛けているが、西浦氏は「8割減」の対策の必要性を強調した。「8割減」では約1か月で新規感染者数を急激に減少させることが可能だが、「7割減」では大幅な減少に約2か月かかり、「甘い削減だと長期化する」と指摘した。

なぜ、この時期、西浦博教授が改めてこの数字を出してこられたのをよく考える必要があります。緊急事態宣言は発出されましたが、諸外国のロックダウンには程遠い状況です。国民の「接触を 8割減らす」ことへの甘い認識を、今一度改めないとオーバーシュート、医療崩壊はすぐにやってきます。ロックダウンしても、接触を 7割減らすのがやっとという数字も諸外国で報告されています。

では、「8割減」達成のためには、どのような行動が必要なのか。西浦氏は、「一日10人と会っていたのを2人にする」とし、接触時間だけでなく、接触回数を減らすことを呼び掛けた。また「対面での食事」や「2メートル以内で30分以上の会話」などが危険な行動とし「例えば、子どもを公園で遊ばせるのは問題ないが、その間に母親同士がランチをしたりするのは避けるべき」と指摘した。

接触を避け、かつ、頑張ってお店を開けておられる飲食店を助けるには、現状では 1人で黙って食事をするか、テイクアウトしかありません。連れ立っての会話をしながらの食事は厳禁です。

Science 14 Apr 2020 の 「Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period 」には

We projected that recurrent wintertime outbreaks of SARS-CoV-2 will probably occur after the initial, most severe pandemic wave. Absent other interventions, a key metric for the success of social distancing is whether critical care capacities are exceeded. To avoid this, prolonged or intermittent social distancing may be necessary into 2022. 

第一波の感染の後、この新型コロナウイルスは冬場に再びアウトブレイクを迎えます。他の介入が無い場合、social distancing 社会的距離を保つことが成功するか否かの評価は、集中治療の受け入れが超えてしまわないかです。このことを避けるためには、social distancing 社会的距離を保つことを継続的に、あるいは断続的に 2022年まで行う必要がありますと記され、

Even in the event of apparent elimination, SARS-CoV-2 surveillance should be maintained since a resurgence in contagion could be possible as late as 2024.

明らかに根絶できた様に見えても、感染の再発は 2024年まで生じる可能性があるので、この新型コロナウイルス感染症の監視は維持されねばならないと結論付けられています。

このように、緊急事態宣言の期限と設定されている、5月6日で感染が完全に収束するのではありません。必ず、冬場に第二、第三の感染爆発の波がやってきます。重症者の治療が行える余力が保てるように、皆が接触を控え、感染のピークを出来るだけ遅く、小さくする必要があります。西浦博教授も同様のシミュレーションではすでに計算済みだと思います。これに関する、教授の意を汲む記者の質問があったのか、改めて会見の動画をアップして頂きたく思います。

ゴールデンウイークに帰省や観光で、人の移動があれば、接触の 8割減など到底達成できません。全国に緊急事態宣言が発出される必要があり、実際に 4月16日夜に政府は決断した様です。地方の県知事さん、危機意識の薄い発言をなさっている方がおられますが、地方こそ集中治療室の数が少なく、数少ない中核病院で院内感染が生じれば、すぐに医療崩壊してしまいます。

新型コロナウイルス関することを記したものを、綴っています。
→「新型コロナウイルス COVID-19」