3月27日、大阪府による匿名での発表に続き、阪神タイガースは、選手 3名の新型コロナウイルス感染を球団の web site でも実名で発表しました。
藤浪晋太郎選手、伊藤隼太選手、長坂拳弥選手の 3名が昨日 PCR検査を受け、昨夜、新型コロナウイルスの陽性判定が確定しましたことをお知らせいたします。
3月28日、大阪府はこの 3名の濃厚接触者の中から 3名の感染者が新たに見つかったことを発表し、報道機関による報道もされました。危惧していたクラスターの発生が確認され、うち 2名は 20歳代の女性とのことですので、さらなる拡大が予想されます。
他の症状が無いのにも関わらず、診断のきっかけとなったのが、においが分からない、味が分からないといった嗅覚、味覚障害です。ENT UK (The professional membership body representing Ear, Nose and Throat surgery、英国耳鼻咽喉科学会)が既に「Loss of sense of smell as marker of COVID-19 infection」として啓蒙の文章を発表しています。
Post-viral anosmia is one of the leading causes of loss of sense of smell in adults, accounting for up to 40% cases of anosmia. Viruses that give rise to the common cold are well known to cause post-infectious loss, and over 200 different viruses are known to cause upper respiratory tract infections. Previously described coronaviruses are thought to account for 10-15% cases. It is therefore perhaps no surprise that the novel COVID-19 virus would also cause anosmia in infected patients.
勝手に訳すと、
ウイルス感染後の無嗅覚症は、大人の嗅覚消失の大きな原因の一つで、無嗅覚症の 40%を占めます。普通感冒を引き起こすウイルスは、感染後の嗅覚消失の原因となることがよく知られており、200以上の異なるウイルスが上気道感染症の原因となることが知られています。既知のコロナウイルスはその 10~15%と考えられます。それ故、新型コロナウイルス COVID-19 が、感染者に無嗅覚症を引き起こしてもおそらく驚くことではありません。
無嗅覚症はウイルス感染後、特にインフルエンザ感染症後によく起こることが知られています。またどのようなウイルス感染後に起こってもおかしくはありません。感冒症状による鼻漏や鼻閉、さらに細菌感染が二次的に生じ副鼻腔炎に進展すると嗅覚減退が生じます。
There is potential that if any adult with anosmia but no other symptoms was asked to selfisolate for seven days, in addition to the current symptom criteria used to trigger quarantine, we might be able to reduce the number of otherwise asymptomatic individuals who continue to act as vectors, not realising the need to self-isolate.
最後に記されている、この部分が重要です。現在用いられている症状の基準に加えて、無嗅覚症以外に症状が無い人にも 7日間の自己隔離を要請すれば、自己隔離の必要性を悟らず、感染の運び屋として振る舞う人々の数を減らすことが出来る可能性があると訴えています。
残念ながら、テレビ番組などマスコミの報道では、この発表を引用しているにも関わらず、この一番大切な内容を正しく伝えていません。
藤浪選手の感染症に関する報道で、意見を尋ねられた専門家の中には、
「無嗅覚症を生じ他の症状がない人でも、すぐに新型コロナウイルス感染症を意味するものではないが、新型コロナウイルス感染症の可能性は否定できない。感染予防のため、すぐに医療機関を受診するのではなく、自宅でまず 7日間安静にして他人との接触を避ける。」ことが大事であることをきちんと指摘されて下さった方もおられます。しかし、その真意を深く掘り下げて報道されてはいません。
藤浪選手をはじめ 3名は他の症状が無いにも関わらず、現状の法律では入院措置が必要で、その措置がとられたとの報道です。呼吸器症状が重篤でない感染者が入院し、ベッド不足になり重症者への治療が滞る可能性が従来より問題と指摘されています。さらに呼吸器症状が無い、無嗅覚だけでの入院が加わると、ベッド不足は加速します。
3月28日に政府は「新型コロナウイルス感染症対策本部」を開催し、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(3月28日)が決定され、厚生労働省の web site にアップされました。この中で、今回の様な他に症状の無い軽症者が入院ベッドを埋めてしまうことが考慮されたのか、単に患者数が急増していることを反映してか、
患者が増加し重症者等に対する入院医療の提供に支障をきたすおそれが
あると判断する都道府県では、厚生労働省に相談の上、重症者等に対する医
療提供に重点を移す観点から、入院治療が必要ない軽症者等は自宅療養とし、
電話等情報通信機器を用いて遠隔で健康状態を把握していくとともに、医師
が必要とした場合には電話等情報通信機器を用いて診療を行う体制を整備
すること。
との、新たな方針を追加しました。大阪府吉村知事が、フォローアップセンターを設置し、ベッド不足を避けるために入退院のコントロールを都道府県単位で行いたく、法律の改正を国に望んでいた通りになりつつあります。更に重要な文言も添えられています。
こうした状況では、感染への不安から安易に医療機関を受診することでか
えって感染するリスクを高める可能性があることも踏まえ、症状が軽度であ
る場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、かかり
つけ医等に相談した上で、受診するよう周知すること。
3月30日追記
その後、3月30日に一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会が、「嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染について―耳鼻咽喉科からのお知らせとお願い―」と題する声明を発表しました。
1. 37.5度以上の発熱が 4日以上続く場合や、咳、息苦しさ、だるさがあれば、お住まいの区市町村の帰国者・接触者相談センターにご相談ください。厚生労働省のホームページからも確認することができます。(中略)
2. 「におい」や「あじ」の異常を感じても、発熱や咳、息苦しさ、だるさがなければ 2週間不要不急の外出を控えてください。医療機関への受診も控え、体温を毎日測定し、手洗いもこまめにしてください。人と接する際にはマスクを着けて対話をして下さい。
3. 嗅覚・味覚障害の治療は急ぐ必要はありません。自然に治ることも多いのでしばらく様子を見てください。特効薬はありませんが、2週間経っても他の症状なく嗅覚や味覚が改善しない場合は耳鼻咽喉科外来を受診してください。
新型コロナウイルス関することを記したものを、綴っています。
→「新型コロナウイルス COVID-19」