ネパール探究紀行
長沢和俊著
角川新書
昭和39年4月30日初版発行
著者のあとがきによると、昭和38年4月から11月にかけ、東海大学西部ネパール学術調査隊が行った歴史学的調査と民俗学的調査の大要を簡潔にまとめられたのが本書とのことです。G. Tucci; Preliminary report on two scientific expedition in Nepal, Roma, 1956 に、かつてマㇽラ王国という強大な王国があったと記されており、その遺跡を調査することが目的のひとつだった様です。
インドのテクニヤからネパールに入り、ドゥッルからジュムラにかけ、またマㇽラ王朝の王都であったとされるシンジャがフィールドワークの場であり、マㇽラ王朝とその後一体となったパーラ王朝の歴史的考察が詳しく記されています。
民俗学的調査とあるように、当時の西ネパールの食生活についても記されています。
西ネパールではドゥッル、ジュムラのような米作地帯は、一応男性は米食らしいが、その他の山間地帯では、おおむね小麦粉(アタ)によるロティ(いわゆるチャパティ)が主食である。アタまたはとうもろこしのロティ数枚とポテトのカレーが、年間を通じて最も多い食事であるという。夏季はそれでも、二、三の野菜も手に入るが、その他は四季を通じて、毎日ロティとポテトカレーである、ロティにはコルサニといって、唐辛子と塩をまぜたものをつけて食する。このほか牛や水牛を飼っている家では、ヨーグルトや脱脂ヨーグルト(モイ)を呑む。とうもろこしは非常に用途が広く、ロティのほか、ポプコーン、ディド等に使用する。ディドは粉末コーンの濃厚なポタージュスープであるが、これは西ネパールではあまり用いられない。畑仕事や放牧の時には、ランチとして、大麦粉を煎ったツァンパかポプコーンを持参する。もちろん、朝食の時作ったロティを持っていくこともある。
果物としてはドゥッルでは、バナナ(ケラ)、桃(アル)、梨(ナシパテー)がとれ、ジュムラでも桃、りんご等がとれるが、いずれも品種改良が試みられていないので、小粒で味も良くない。この地方では胡瓜(カングロ)も果物として扱われ、輪切りにしてコルサニをつけて食する。