交感する神と人 ヒンドゥー神像の世界 三尾稔編 国立民族学博物館発行

交感する神と人 ヒンドゥー神像の世界

三尾稔編 国立民族学博物館発行 2023年9月14日

国立民族学博物館の特別展『交感する神と人 ヒンドゥー神像の世界』に出かけました。図録も販売されていましたので買い求め、帰宅後しっかりと復習しました。

第1章 神がみの世界へのいざない
第2章 神がみとの交感
第3章 交感の諸相
第4章 ときの巡り

で構成され、実行委員の方々による13のエッセイも掲載されています。

『みんぱくウイークエンド・サロン- 研究者と話そう』、「神がみを演じる – ネパールの仮面舞踏」も覗いてみました。

ネパールのカトマンズを故地とするネワール人は、母神やシヴァの憤怒相バイラブの守護神を崇拝し、仮面舞踏によって神がみを顕現させます。カルティク・ナーチ演劇祭(北田)、バイラヴ舞踏とナヴァ・ドゥルガー舞踏(南)を紹介し、その多様性や魅力について対談します。

お話を聞かせて頂いた中で、興味がわいたのは「ポカラのバイラブ舞踏は以前は12年に一度行われていたのが、6年に一度に変わった」という点でした。日時にこだわるヒンドゥーの宗教儀式において、簡単にその日時を変更できるのか疑問に思ったからです。

12年に一度のお祭りですぐに思いつくのが、Rato Machhendranath Jatra です。→「Rato Machhendranath Temple ラトマチェンドラナート寺院(Bungamati)」

その他にも The Unique 12 Years Festivals of Nepal | Buddha Air には、12年毎に祝われるお祭りとして、Makar Mela of Panauti、Barha Barsey Mela of Harisiddhi、Nardevi Jatra、 Barha Barsey Jatra of Machchhendranath、Barha Barsey Mela of Godawari が紹介されています。

講師の南真木人教授によると、お金がかかるお祭りを以前は 12年に一度しか催せなかったが 6年に一度催す余裕もできた面もあるのではとのお話でした。

国立民族学博物館内のレストラン、以前は各国料理も登場していました →「ネパーリー・サーダ・カーナ ランチ @ レストラン みんぱく (吹田市)」 が、経営が変わったのか、一般受けするメニューのみにかわっています。カレーライスのとんかつトッピングを頂きました。

国立民族学博物館

吹田市千里万博公園 10-1

https://www.minpaku.ac.jp/

ネパーリー・サーダ・カーナ ランチ @ レストラン みんぱく (吹田市)

大阪の万博公園の一角に、国立民族学博物館 National Museum of Ethnology があり、その一階に「レストラン みんぱく」があります。「民族学」博物館のレストランですので、各国料理がメニューとして登場します。6月9日からのメニューの “ネパーリー・サーダ・カーナ ランチ” が気になって仕方ありません。ネパール料理メニューの前回がダルバートでしたので、今回もダルバートの選択肢は有ったのか無かったのか、是非知りたくなってしまいます。しかも日本人には馴染みのない サーダ カーナ(サダ カナ Sadharan Khana)の登場には、敬意を表したくなり、早速伺ってみました。ダルは、よくある「カレー仕立て」ではなく、ネパール仕様のダルでした。マスとムスロのミックスとの事ですが、チャナも使われている様です。マスはこれまたきちんとネパール仕様で、玉葱も使われたドライタイプのククラコマス Kukhura ko Masu でした。アチャールは、客層や食材の回転も考えられたと思われる、発酵を押さえた大根と人参のアチャールで、これはこれで十分美味しい出来上がりです。高めの値段設定は立地を考えると致し方ありません。

レストラン みんぱく
国立民族学博物館

吹田市千里万博公園10-1

http://www.minpaku.ac.jp/museum/information/restaurant

現代ネパールの政治と社会ー民主化とマオイストの影響の拡大(明石書店)

現代ネパールの政治と社会
民主化とマオイストの影響の拡大

Politics and Society in Modern Nepal: Democratication and the Expansion of the Maoists’ Influence.

南 真木人、石井 溥 編集
明石書店
2015年3月31日初版第1刷発行

ひょんなことから国立民族学博物館の研究者の方と食事で同席させて頂き、これも何かのご縁かと、久しぶりに万博記念公園にある同館を訪れてみました。博物館、美術館を訪れると、Book Storeでついつい時間を費やしてしまいます。この時も数冊本を購入しました。その中の1冊です。

「はじめに」として、以下の様に本書は始まっています。

本書は近年のネパールの政治と社会を主題とし、ネパール共産党(毛沢東派)(以ド「マオイスト」と省略)の武装闘争とそこから拡大した内戦、および、それ以後の政治の表舞台へのマオイストの登場の時期に注目するものである。マオイストが力を得た経過・理由、その思想などを把握することは、今日のネパールとその行方を理解するうえで重要であるが、これは、それにできるだけ接近するために行われた国立民族学博物館での共同研究の成果の一部である。 

内容の概略については

一~三章、および七章は、それぞれ異なる面からマオイストの動きとその影響を論じたものである。四~六章では、内戦の時期を含めつつ特定の地域やグループに焦点をあててネパール社会の変化と人々の行動を分析する。八~十章は、マオイストや民族・地域に注目しつつ、内戦後はじめての選挙(○八年)をそれぞれ異なる視角から扱っており、十一章は近年のネパール社会を把捉するために重要と考えられるジェンダーに関わる問題を論じている。

と書かれています。

中学校時代に英語を教えて下さった先生が、ネパールに渡り障がい児教育に尽力されていた時期が、丁度この時期と重なります。異なる宗教ゆえに、マオイストから殺害予告も出されたり、カトマンズの教会が爆破された知らせも伝わってきました→BBC News “Church in Nepal hit by explosion”。その顛末の一部は「大木神父奮戦記」にも記載されています。遠い国、日本からみると、マオイストの過激な行動だけが印象に残ったものでした。しかし、それだけではネパールの人々が受け入れるはずもなく、

マオイストは暴力や脅迫だけではなく、歌や踊りや芝居を通じた宣伝にも力を入れていた。

とある様に、従来のネパールの社会には無かった共産主義的な思想の浸透手法も用いられました。

本書は、異なる視点からマオイストに焦点を当てながらも、当時の特に田舎のネパールの様相が、フィールドワークの成果として描き出されています。マオイストと政府軍の板挟みとなり、付かず離れずの態度を取らざるを得なかった人々の実態も窺い知れます。同時に、マオイストが持ち合わせ、それらの人々に足らなかったものも浮き彫りにしています。

こうしてみると、マオイストがマガル人の村にもたらしたものは、論理的に話す、あるいは書き留めるといった広義のリテラシーと、権利や公正、正義を追求するといった「近代」の価値観そのものであった。

その価値観に、人々を目覚めさせた事も、マオイストの功績なのかも知れません。

今回の選挙におけるネパール全体でのマオイストの勝利は、一九九〇年の民主化以後、人権意識や正義の拡大という近代化が確実に進展した証とも読みとれるだろう。これまで社会的に抑圧され、政治的な権利を奪われてきた民族やグリッド、女性のあいだにも「開発」や教育が普及したからこそ、近代化としてのマオイズムが受け容れられ、これほどまでに支持者を増やしたと逆説的に推論できるのである。

あとがきで、

本書はネパールのマオイストが反政府武装闘争を繰り広げた「マオイスト運動」期と二〇〇六年に政党に戻り、政治の表舞台に登場した「マオイスト政治」期を取り上げ、現代ネパールの政治と社会を多面的に理解しようとする試みである。いずれの論考もマオイストの運動や政治を前景ないしは後景に置き、体制が変わる激動のネパールの諸相を描写しているが、伝えきれていないものがあるとしたらそれは、論文という形ではなかなか表現できない、人民戦争期の張り詰めた空気であっただろう

と書かれている様に「ネパールの諸相」を、少しばかり覗くことが出来ます。

厭戦気分の高まりと平和を願う気運は、第一回制憲議会選挙前、多くの人に「マオイストを二度とジャングルに戻らせてはいけない。そのためには選挙で彼らにある程度勝たせなければならない」という考えを抱かせた。だからといって、自分の一票を意に染まないマオイストに投じた人が多かったとは思えないが、選挙後にはマオイストの勝利を認めたくない人々を中心に、そうした動機とその元にある恐怖が制憲議会選挙におけるマオイストの勝因であったと主張された。マオイストを捉える人々の意識についていえば、マオイスト白身もそうであったが、誰もが情勢を見誤ってばかりだったのである。本書でも明らかになったように、多様な地域や属性の人々の異なる意識や対応が、状況の全体を掌握することを難しくさせてきたといえる。その意味で本書がそうした見誤りを少しでも是正することにつながればと自戒を込めて願う。

と最後に結んでおられます。

国立民族学博物館の web siteにも、「マオイスト運動の台頭と変動するネパール」と題して研究プロジェクトの紹介がされています。

牛肉のフォー @ 国立民族学博物館(吹田市)

某所での宴の際に同席させて頂いた方々から、吹田市の万博記念公園にある国立民族学博物館で特別展が開かれており、常設展の展示も以前とは変わっているとのお話を伺いましたので、出かけてきました。特別展は、国立民族学博物館 開館40周年記念、太陽の塔からみんぱくへ―70年万博収集資料と題されています。子供がまだ小さい頃に連れてきて以来でしたが、常設展の方も各民族の家の様子の再現などもあり、確かに大人も楽しめる展示になっていました。因みに下の写真はタシュケントの民家の台所で、チセ(伝統的なアイヌの家屋)も再現されています。ネパール、インドのコーナーには砂の曼陀羅や素敵な彫刻もあったりします。併設の「レストランみんぱく」では、会館40周年記念特別メニューとして東南アジアカレーランチの提供もされています。エスニックランチメニューから、牛肉のフォーを頂きました。

国立民族学博物館
National Museum of Ethnology

吹田市千里万博公園10-1
http://www.minpaku.ac.jp/