ネパール、インドのお米の閑話 Taichung 65 – Mahsuri – Ponni

事の始まりは Asha さん @ashachankaeru が投稿された Japonica Rice(Tai chin Rice)の写真です。Tai chin Rice とは何ぞやと、その筋の方で話が盛り上がり、ネパールで古くからある一般的なお米の銘柄 マスリ Masuli (or Mahsuri) が、タミルのミールス米として食べられているポンニ Ponni と同じ交配種ではないかというところまで話が続きました。

1929年ジャポニカ米同士を掛け合わせ台湾の気候に合うように作られた「台中65号」、インドに渡り日印型品種交配計画で交配により新たな品種を目指すも芽が出ず、コロンボ計画のもとマレーシアへ渡った日本人研究者によって改良が加えられ「Mahsuri(Masuli)」が1965年に誕生。Mahsuri は 1970年代初めにはネパールやインドでも栽培されるようになりました。当時からインドでは Ponni とも呼ばれていた様です。南インド料理で頂く機会もあるポンニ米、起源の一部はジャポニカ米です。

マスリとポンニは同じものか、 web を彷徨ってみました。

「さかのぼるとMasuli米はインドで交配された」とアジアハンター小林さんがお示し頂いた、山川寛他「マレイシアにおける二期作用水稲品種、マリンジヤ、マスリ、バハギヤの育成に関する研究」熱帯農業 21 (1) : 40-42, 1977 には

マリンジヤ、マスリの育種材料は、FAO の日印型品種交配計画 (Indica-Japonica Hybridization Programme) によりインドで交配された組み合わせで、(中略)マスリは育成当初いもち病抵抗性に弱点がみとめられたことから、抵抗性遺伝因子の導入を戻交雑によって試み、いわゆる”改良マスリ”を得た。

と記され、組み合わせは (Mayang Ebos 80 × Taichumg 65 (台中65号)) × Mayang Ebos 80 と表記されています。Mayang Ebos 80 と Taichumg 65 を交配させたものに、さらに Mayang Ebos 80 を戻し交配させることにより、日本人の研究者が中心となってマレーシアで開発し、1965年1月に発表したものです。

Wikipedia などでは、Ponni rice は、1986年に Tamil Nadu Agricultural University で開発されたというのが定説の様に記されています。ポンニがマスリと別の交配方法を経て同大学で完成されたものであれば、両者は別物という事になります。

White ponni の Parentage については EXPERT SYSTEM FOR PADD の Paddy Varieties of Tamil Nadu に、Taichung 65/2/Mayang Ebos-80 と記されています。他には Taichung 65/Mayang Ebos-80/2 と表記されているものもあり、どのようにこの2種が実際に Tamil Nadu Agricultural University で交配、開発されたかを調べようとしましたが、辿り着くことが出来ません。

The International Rice Research Institute 1972 による『rice bleeding』には

The Japanese during the war introduced Bir-me-fen from Taiwan (called Pebifun in Malaya) in Province Wellesley. After the war the japonica x indica selection work in the FAO project, intensively carried out with the help of Japanese breeders, resulted in the release of Malinja and Mashuri for the second crop area. Mashuri is now being grown in Andhra Pradesh in India.  

と記され、Mashuri は 1972年には既にインド(少なくともアンドラプラデシュ州)で栽培されていた事になります。

RICE BREEDER の MILESTONE OF RICE VARIETIES IN TAMIL NADU の項目にも、

POPULAR INTRODUCTIONS IN TAMIL NADU
Ponni – Mahsuri (1972) Fine grain

と、1972年には Ponni – Mahsuri が既にタミルナドゥ州に導入されていたことを示しています。この表記を見ると、Ponni イコール Mahsuri と捉えることもできます。

International Rice Research Institute (IRRI) が刊行するニュースレターの、1978年の”Development and Evaluation of Derivatives of Mahsuri (Ponni) ” には、

Mahsuri is grown on 50 to 60% of the paddy land during the monsoon season (Aug.-Sept. to Feb.) in Pondicherry state and in South Arcot, North Arcot, Chinglepet, and Tanjor districts of Tamil Nadu.  Mahsuri (renamed as Ponni in this region) is popular with farmers because of its fine grain and its medium growth duration that facilitates culture in the late monsoon season.
と、タミルナドゥのこの地域で Mahsuri が Ponni に名前が変わったと記されています。
アジアハンター小林さんに着目していただいた、Mahsuri の Parentage  Mayang Ebos 80*2/Taichung 65 であることも記していた記事は

→「ダルバートのバートはバスマティ米という意味ではありません」

おまけの写真は西日本の田んぼで作付けされている、高温登熱性に優れ、良食味・多収、縞葉枯病に抵抗性で穂いもちにも強い「恋の予感」です。

 

 

 

ネパールのミルク無しの紅茶 Fikka (Phikka) chiya フィカチア Rato chiya ラトチア

ネパールではチア(チヤ)、インドではチャイ、スリランカではキリテーと、ミルク入りの紅茶は南アジアで定番の飲み物ですが、大阪のいくつかのネパール料理店では、スタッフのネパールの方が普段飲まれているような、ミルク無しのスパイス入り紅茶を楽しむことが出来ます。

メニューにも載っているのが、「インド・ネパール料理 Jun」さんです。お店のインスタグラムでもこのミルク無し紅茶「ラトチア」を紹介されています。

黒チャイ お砂糖、スパイス、素敵なものをいっぱい。
ピリッと刺激的な温かい飲み物になってます。
うちのネパール人は普段はミルクのチャイはほとんど飲みません。
コーヒーも苦手です。
普段の飲み物はだいたいこのチャイかレッドブル
ネパール語ではラトチアと言います。

店主ガナシャムさんも同じ味は出せないと言われる、元スタッフの奥様がお店に立ち寄り作られた時のみ頂けるのが「SIMRAN シムラン」さんです。

「ネパールのごちそう jujudhau ズーズーダゥ」さんでは、厨房の手が空いている時に、店主カドカさんの気分次第で登場することがあります。ヒマラヤ岩塩などを使ったものが頂けるときもあります。もちろん、ヴィーガンダルバート提供時にはミルク無し紅茶となります。

最近新たなコックさんが加わり飲食の営業を再開された「カトマンズスパイスマート & モモハウス Kathmandu Spice Mart & Mo:Mo House」さんでも、食後の紅茶をスパイスが沢山入ったミルク無しでお願いすることが出来ます。

その筋の先達が、ミルク無し紅茶のネパール語表現について問われていました。確かに web 検索しても上手くヒットしません。Off The Beaten Treks 「HIDDEN VILLAGE An off-the-beaten trek guide to Gurja Khani」 の記事で Black tea のネパール語として phika chiya /raato chiya/dudh na-bhaeko chiya が示されています。

Fikka (Phikka) chiya फिक्का चिया が相当しそうですが、Phika chiya फिका चिया (फीका चिया) でも変わりないと教えて下さるネパールの方もおられます。Rato chiya रातो चिया、Kalo chiya कालो चिया は赤い紅茶、黒い紅茶ですので間違いはなさそうです。Dudh na-bhaeko chiya दुध नभएको चिया は文字通りミルクの入っていない紅茶の意味の様です。

これまで、記事のなかでピカチア(ピカチヤ)と表記してきましたがフィカチア(フィカチヤ)の方が近いのかも知れません。

फिक्का は淡いという意味の様です。फिक्का चिया の定義もネパールの方でも人によって異なるようです。ミルクも砂糖も入っていないのが फिक्का चिया と言われる方もあれば、ミルクが入っていなければ砂糖が入っていても फिक्का चिया と言われる方もあり、また別の方はミルクが入っていないもので फिक्का चिया はスパイスがあまり加えられていないもの、スパイスが沢山加えられているのは रातो चिया の表現の方が良いと言われます。

もっとネパール語に詳しい方、ご助言下されば幸いです。

 

 

 

ナマステの国の神々 ―ネパールの赤い世界 川口敏彦著 叢文社

ナマステの国の神々 ―ネパールの赤い世界

川口敏彦著
叢文社
2001年10月17日 初版第1刷

著者は、『はじめに―「赤の世界」』で、

一歩この盆地に足を踏み入れると、この地域が全アジアから見てもきわめて特殊な地域とすぐに気づくに違いない。そこには神々が住んでいるのだ。赤く染まった神の居場所は、街のいたるところにある。「カトマンドゥ盆地は赤であふれている」という印象は、つまるところ、神が街の中にいっぱいいるということなのだ。

と記しているように、日常生活に溶け込んだ街中の神の写真が多く載せられています。写真を眺めているだけでカトマンドゥ盆地の街を散策している気分です。バクタプルで出会ったというヒンドゥの神に詳しいガイド、パサンタや、街で出会った人々の説明が神々の解説となっています。宗教と生活が一体となったネパールの人々の暮らしを理解するには、神々の意味を理解することが手始めになります。

『頭蓋骨のお椀』の章で、著者は、ダルバール広場の破壊神シヴァ神の化身である、カーラ・バイラヴ像について、

私が持っている常識では、神が持っている頭蓋骨のお椀にお供え物を置いていく人々のことをどうしても理解できそうになかった。

との感想を記しています。シヴァ神が破壊と共に再生、生殖、時には病を治す神でもあり、人々の人気を集め、マハー・シヴァラートリーでその威光を讃えられていることなど、他の宗教を知ることは難しいことです。30数年前、初めてネパールを訪れた私は何も知りませんでした。

写真は、2017年に訪れた際に撮った、カーラ・バイラヴ像です。

ネパールでも新型コロナウイルス SARS-CoV-2 感染症 COVID-19 の感染拡大

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 感染症 COVID-19 のインドでの感染爆発に続き、ネパールでも大変な様相になってきました。

COVID-19 Data Repository by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University によると、
2021年4月30日の 1日の新規感染者数は インドが約40万人、ネパールが約5千7百人と報告されています。日本が約4千7百人です。ネパールの人口は、日本の 4分の1以下ですので、人口あたりの感染者数でみると、ネパールは既に日本の約 5.3倍になっています。

2021年4月25日付け Kathmandu Post の「People ignoring social distancing despite spike in infections」によると、

The government on Monday had also decided to restrict gatherings of over 25 people at festivals, weddings, other life rituals and funerals. However, as the wedding season is here, no one appears to be following the restriction order and at the same time there are no officials to monitor if the order is being observed.

政府はようやく、お祭りや、結婚式、葬式などで 25人以上集うことを禁止することを決めた様ですが、結婚式シーズンを迎え、人々は従いそうにはなさそうです。

各種ニュースでは、3月末のホーリーのお祭りの際のインドでの状況が伝えられました。NEWS9 live の動画「Holi celebrations across India」によると、

Holi festival was celebrated with great pomp and fervor in several parts of the country. But public celebrations were banned in several states and limited celebrations were allowed in few states due to the rise in the COVID-19 number cases.

ホーリーを公共の場で祝う事を禁止した州がありましたが、感染予防対策とは程遠い状況で、華やかに激しく祝われたところもあった様で、その様子を動画で見ることが出来ます。その後、4月に入り、インドでの感染爆発が続いています。

ネパールでも、若者が中心となって警告を無視し、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンス関係なしに密に集っている様子が、2021年3月28日付け onlinekhabar の「Kathmandu’s Holi revellers flout Covid-19 safety measures」の記事で報じられています。

As Nepalis across the country are celebrating the Holi festival on Sunday, hundreds of youth gathered in Basantapur of Kathmandu for a celebration.

Although the Ministry of Health and Population has already warned the nation about a possible spread of the next wave of the Covid-19 pandemic and concerned authorities have urged the public to celebrate the festival within the family only, the youth gathered in the public open space and partied together.

その後も2021年4月14日付けの Himalayan Times の「India’s new coronavirus infections hit record as Hindu devotees immerse in Ganges」に記されるように、

Still, hundreds of thousands of devout Hindus gathered to bathe in the Ganges river on Wednesday, the third key day of the weeks-long Kumbh Mela – or pitcher festival.

4月のクンブメーラのお祭りの際にも多くの人々が密に集いました。

2021年4月26日付け Kathmandu Post の「High risk of Covid spread in absence of quarantine centres」では、

Thousands of migrant workers returning to Nepal from India via various border points in Lumbini Province are making their way home to different cities and villages across the country. Unlike last year when the local and district governments in Lumbini Province had made quarantining mandatory for returnees, this year there are no such provisions.

と記され、インドへ出稼ぎに行ってたネパール人が陸路で帰国する際に、以前は行われていた 2週間の隔離など無しに素通りであることが指摘されています。また入国に際する PCR検査も十分行われていない様です。インドで大流行している変異株が、素通りでネパールに流れ込むのであれば、ネパールの今後の感染者数の爆発的な増加は火を見るよりも明らかです。

ネパールの伝統ボードゲーム バグチャル Bagh Chal

「インド・ネパール料理 Jun」さんのネパール人のコックさん、レサムさんとロクさんも大好きな、ネパールの伝統ボードゲーム、バグチャル Bagh Chal を最初に目にしたのは Kathmandu のホテルです。部屋に、置かれていました。「世界遊戯博物館」さんの世界の伝統ゲーム紹介に遊び方が記されています。
「ネパールのごちそう jujudhau ズーズーダゥ」さんの入り口付近の壁にも飾られています。

インド・ネパール料理 Jun

大阪市阿倍野区昭和町 1-21-18

https://localplace.jp/t100514346/
https://twitter.com/jun_curry_showa
https://www.facebook.com/jun.curry.showacho/

ネパールのごちそう
jujudhau ズーズーダゥ

池田市室町1-3

https://ja-jp.facebook.com/jujudhaunepal/
https://www.instagram.com/jujudhau/?hl=ja

 

 

新型コロナウイルス感染症に関するネパール語による小池東京都知事からのメッセージ

今年のネパールのお祭りティハール Tihar は、暦の関係で、
Kukur Tihar と Laxmi Puja が同じ日、11月14日に祝われました。

2日目は 【ククルティハール】
(今年2020年は2日目にククルティハールとラクシュミープジャが行われます)
ククルは犬。犬の日になります。ヒンズー教では犬も閻魔大王の使者で、犬の首にマリーゴールドの花輪をかけ、額には赤いティカ(祝福の祈り)をつけてもらい御馳走を食べさせます。

3日目は【ラクシュミープジャ】
新月のこの日はラクシュミーを家に迎えし、お金に不自由なく、家族が健康で幸せに暮らせますように…と祈る特別な日です。

ダサイン Dashain の際もそうでしたが、人々がお祭りで集うことにより新型コロナウイルス COVID-19 の感染拡大のリスクが高まります。ネパール国内でも、11月14日付けの Himalayan Times の記事「Kukur Tihar, Laxmi Puja being observed today amid COVID-19 pandemic」には、

People celebrate Laxmi Puja in every household today by lighting butter lamps and candles inside and outside the households to welcome the Goddess by lighting up the path.

All the nooks and corners of the house including the courtyard and rooms are illuminated with colourful and decorative lights this evening with the belief that Goddess Laxmi does not visit places that are not properly illuminated, and to please Goddess Laxmi, people light lamps and spend the whole night in a vigil.

The night of Laxmi Puja is also known as ‘the Night of Bliss’.

People also play deusi-bhailo following the puja. However, this year the administration offices have banned Deusi-Bhailo revelries and other Tihar-related programmes. The authorities have requested people to keep the possible spread of the virus in mind while celebrating the festival. The offices have urged locals to stay safe while celebrating the festival.

In addition, Nepal Police headquarters has directed all police units to prohibit Deusi-Bhailo programmes in their respective areas during the Tihar festival citing the spike in COVID-19 cases throughout the country.

子どもや若者が歌い踊り家々を回るデウシバイロ Deusi-Bhailo を禁止している様です。

日本国内でも在日ネパール人が集うことによるクラスター発生の危険性が指摘されていると思われ、11月12日に小池東京都知事が「新型コロナウイルス感染症に関するネパール語による都知事からのメッセージ」として、ネパール語で呼びかけを行っています。東京都庁広報課の Twitter で見ることができます。

टोकियोका गभर्नरबाट सन्देश
प्रियजनको सुरक्षाको लागि “संक्रमण नहुने, संक्रमण हुन नदिने” कुरा प्रति सचेत रहौं। 

このことを受け、11月13日に「ネパールのごちそう jujudhau ズーズーダゥ」のカドカさん朝日放送の番組「キャスト」の取材を受けられ、「とても大事なことを呼びかけていただいていると思う(番組の字幕より)」と答えられたことが放映されました。

 

ネパールで初めての新型コロナウイルス感染による死亡者

外国からの帰国者が肺炎症状で死亡しても、新型コロナウイルス感染との関連を否定してきたネパール政府ですが、5月16日付けの Kathmandu Post の「Nepal reports its first Covid-19 death」と題する記事によると、初めての新型コロナウイルス感染による犠牲者を発表したとのことです。29歳の女性で、5月6日にTribhuvan University Teaching Hospital で通常の出産を終え、5月7日に退院、帰宅後まもなく発熱と呼吸困難の症状が生じ、5月14日にDhulikhel Hospital に向かう途中で亡くなったとのことです。病院に到着時に既に亡くなられていあったが PCR 検査を実施し結果が陽性で、the National Public Health Laboratory の再検査でも陽性を呈したとのことです。この時点で、ネパール国内の感染者は 281名とのことです。

5月12日付けの Kathmandu Post の「83 new Covid-19 cases confirmed, the highest in a single day; national tally reaches 217」の記事で、1日に 83名の陽性者が報告されていました。

ネパール政府は、ロックダウンの期間を既に3回延長し 5月7日までとしていましたが、4回目の延長により 5月18日までとなっています。しかしこの際に、制限を緩めてしまっていました。

5月17日付けの Kathmandu Post の「Asymptomatic patients to be quarantined or sent home as ministry expects 1,000 cases in a week」の記事で、

The government has anticipated an exponential rise in the Covid-19 cases throughout the country—1,000 within a week and around 2,000 in 10 days.

政府は、1週間以内に 1000人、10日以内に 2000人の、急激な新型コロナウイルス感染症例の増加を予想しています。ロックダウンの制限が緩やかになり、多くの人がインドから流入し、国内を移動しているのが原因と政府は考えている様です。ある推測によるとこの 1週間の間に 1日平均で約 5700人が Kathmandu Valley に流入しているとのことです。ネパール全土での感染者数が 1000人を超え 2000人にでもなれば、医療崩壊を来すと予想されています。

 

 

ダルバートから考えるネパールの風土 森本泉著 モンスーンアジアのフードと風土 横山智 荒木一視 松本淳 編集 明石書店

ダルバートから考えるネパールの風土
森本泉著

モンスーンアジアのフードと風土
横山智 / 荒木一視 / 松本淳 編集

明石書店 2012年9月10日 初版第1刷発行

休日は外出を控え、本を読みましょう。
ダルバートに関する日本語で書かれた総説です。

ネパールの町中の大衆食堂に入って「カナ khana (食事)」を頼むと、ダルバート dal bhat が出てくる。このような食堂にはメニューが無い。ダルバートとは文字通り訳せば豆汁(ダル)ご飯(バート)である。副食としてジャガイモや野菜を油で炒めて塩と香辛料で味付けしたタルカリ tarkari(おかず)や、酸味や辛味の効いたアチャール acar(チャツネ)が添えられ、これらが一つのプレートに盛りつけられる。ダルバートを頼むと「マス masu(肉)を食べるか」と尋ねられ、各店で提供可能な肉(山羊や鶏、水牛等)の種類が提示される。その中から好みの肉を選ぶと、肉のおかずがダルバートに加わる。多様な自然環境が広がるネパールで広く親しまれている食事が、このダルバートである。

という『1. はじめに』の文章から始まり、

「肉を食べるか」という問いは、2008年までヒンドゥー王国を謳ってきたネパールでは、個人の好みや健康への配慮というより、文化的規範を問うことを意味する。

と続きます。『2. ダルバート』ではダルバートの実際を紹介し、『3. ダルバートからみた地域差』では、ネパールは南部を除いては平野が少なく土地生産性が低く、かつ、都市部を除く地域での食生活は食材の流通環境に左右されると指摘しています。また購買力の問題もあり、人々は集落周辺の農耕地や、森林、川に、生活の糧を求め、自然環境に由来する季節性や地域性が維持されてきたと考察しています。『4. 食文化をめぐる社会的影響』では、「肉食に関する禁忌・制限」として、20世紀後半までヒンドゥー的ナショナリズムが進められていたことを紹介し

「肉を食べるか」と問うことは、ヒンドゥ―であるのか、カースト的階位が上なのか、あるいは高位カーストでもヒンドゥー的な慣習にどの程度準拠しているのか、個人の文化的規範を問うことに繋がるのである。

と、記し、さらに

1996年からマオイスト(現ネパール共産党統一毛沢東主義派)が政府に対して武装闘争を展開する過程で、世俗国家の実現を目的の一つに掲げて宗教を否定し、ヒンドゥー教が神とする牛の肉を兵士が食べていたことが話題となった。

とつなげています。『5. おわりにかえて』では

ネパールのカナ(食事)として親しまれるようになったダルバートは、今度は外国のネパール人コミュニティを通してネパールのカナとしてグローバル化している。しかしながら、私たちに本をはじめ南アジア以外の地域で接するネパール料理は、多くの場合はインド料理の雰囲気をまとうエスニック・フードとしてのネパール料理である。

と2011年当時の、日本でのダルバート、ネパール料理の状況が記されています。それから約10年、新大久保や名古屋、福岡でのネパール人コミニュティが膨らみ、ダルバートが彼らの中で普遍化するとは、著者も予想していなかったのかもしれません。

参考までに

→「現代ネパールの政治と社会 民主化とマオイストの影響の拡大 南真木人、石井溥 編集 明石書店」

→「ネパールにおける豚肉事情」

→「大阪、兵庫、京都、奈良で食べるダルバート Dal bhat」

写真は Kathmandu 郊外の市場のじゃが芋です。

新型コロナウイルス感染症による死亡者が皆無のネパール COVID-19

3月23日ネパールで 2人目の新型コロナウイルス感染者が確認されると、ネパール政府は数時間後には 24日朝から 1週間の全国土の都市封鎖ロックダウンを決定し実行しました。3月23日付けの The Kathmandu Post 「Nepal goes under lockdown for a week starting 6am Tuesday」の記事によると、フランスからカタール経由で帰国した19歳のネパール人の学生がその 2人目の感染者でした。

3月29日付けの The Kathmandu Post 「Nationwide lockdown extended until April 8, ban on international flights until April 15」の記事によると、その全国土の都市封鎖ロックダウンは 4月8日まで延長、3月31日までとされていた国際線の飛行禁止も4月15日までになりました。3月28日政府の発表によると、別のベルギーから帰国した 19歳の女性が陽性であり、2例目とカタールから搭乗した飛行機が一緒でした。他に UAE のシャルジャ空港から帰国した Dhading 出身の 32歳男性と、同じく UAE のドバイ空港から帰国した Dhangadhi 出身の 34歳男性も陽性で、この時点で国内感染者は 1月の 1名を含め、5名となっています。

3月29日付けの The Himalayan Times 「Person under treatment in isolation at Butwal dies」の記事では、3月19日にドバイから帰国した 34歳男性が亡くなられ、病院関係者によると、検査のための検体をカトマンズに送ったが結果はまだ戻ってきておらず、前述のドバイから帰国した 34歳男性と同一人物かは不明です。

3月30日付けの The Kathmandu Post 「Authorities face a hard time when it comes to contact tracing those who travelled with four Covid-19 patients」の記事では、最近海外から帰国して陽性であった 4名と同じ飛行機に搭乗した 458名の乗客のうち、連絡がとれているのは 156名のみで、残り 302名とは連絡がとれてすらいません。更に帰国後の国内での移動の際の濃厚接触者の調査は全く不可能の様です。

4月2日付けの The Kathmandu Post 「Health Ministry confirms sixth Covid-19 case」の記事で、6例目の症例が、

4月4日付けの The Kathmandu Post 「Nepal confirms three more Covid-19 cases, including first case of local transmission」の記事で 7例目から 9例目の症例が、初めての国内での感染症例も含め報告されました。

4月11日付けの The Himalayan Times 「Bir hospital starts COVID-19 tests」の記事で、ようやく Kathmandu の中心に位置する Bir hospital でようやく PCR 検査を開始するとのことです。1日に 60 検体を検査することが出来、400 検体分の試薬のストックが有る様です。この記事が書かれた時点で、ネパールでは 3525 検体が検査され、3516 検体が陰性と記されています。陽性の 9 検体は、検査に回った検体の 僅か 0.3 %です。陽性者は全員生存していますので、ネパールでは新型コロナウイルス COVID-19 感染による死者が皆無ということになります。

Government of Nepal, Ministry of Health and Population の web site では、4月11日現在の数字として、४४२६ परिक्षण गरिएको (4426 tested)、४४१७ संक्रमण नदेखिएको (4417 no infection seen)、८२ आइसोलेशन (82 isolation)、९ संक्रमण देखिएको (9 infection seen)、१ निको भएको (1 healed)、० मृत्यु भएको (0 died) と発表されています。この数字を用いると、検査での陽性率は更に低くなり 0.2 %です。

入国を禁止する前の中国との人の往来の多さなどを考えると、検査陽性率、感染者数、死亡者数とも周辺諸国とはかけ離れた数字となっています。最近では、上記 2紙とも疑わしい死亡症例について殆ど報じなくなってきました。政治的な意味合いを持っていないことを願います。

新型コロナウイルス関することを記したものを、綴っています。
→「新型コロナウイルス COVID-19」

 

 

COVID-19 に関する、ネパール、インド、タイの日本人への対応

3月に入り、日本からの入国に対する諸外国の対応が厳しくなってきました。

ネパールの Department of Immigration は 3月2日、Urgent Notice about the Suspension of Visa-on-arrivalを発表しました。アライバルビザの取得が3月10日から不可能になり、健康証明書を添えて前もってのビザ取得が必要になります。

The Government of Nepal is monitoring the spread of Corona Virus (COVID-19). Taking into account the global recommendations and measure of the WHO, the Government of Nepal has decided to temporarily suspend visa-on-arrival for the nationals of the following countries, effective from 10 March, 2020 to till the date of further notice:

  1. People’s Republic of China, including Special Administrative Regions
  2. Islamic Republic of Iran
  3. Italy
  4. Republic of Korea
  5. Japan

However, those willing to visit Nepal can obtain visa beforehand from the Nepali Missions abroad. Applicants in these countries are required to submit a recently issued health certificate with the visa application.

インドの Bureau of Immigration は、 Advisory: Travel and Visa restrictions related to COVID-19を発表し、2020年3月3日以前に発行され、まだ入国していない日本人へのビザを即座に無効にしました。

All regular (sticker) Visas/e-Visa (including VoA for Japan and South Korea) granted to nationals of Italy, Iran, South Korea, Japan and issued on or before 03.03.2020 and who have not yet entered India, stand suspended with immediate effect. Such foreign nationals may not enter India from any Air, Land or Seaport ICPs. Those requiring to travel to India due to compelling reasons, may seek fresh visa from nearest Indian Embassy/Consulate.

タイ保健省の疾病管理局 Department of Disease Control は 3月3日、Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) News Release Report on March 03, 2020を発表しました。

Unexposed groups including both Thai people and foreigners with travel history from affected areas, but who did not have exposure to patients and who are not exhibiting suspected symptoms are requested to reduce social activities, wear a mask when leaving their accommodations, wash hands frequently, not go to crowded areas, and observe your symptoms at home for 14 days. If you have a fever, cough, or sore throat, see a doctor immediately and report your travel history.

タイ人も外国人も、感染エリアへの旅行歴があるものは、人混みへ出かけず、家で14日間自身の症状を観察するように要請されています。

2月23日付けの発表は日本からの観光客は関係ないと解釈する向きもあり、タイ国政府観光庁の web site では「タイ保健省からのコロナウイルスに関する発表」と題して、

タイ保健省が出した発表は『タイへの帰国者』に向けたもので、2/24現在、日本人観光客に対して直接観光を制限する指示は出されておりません。
事実関係は下記のとおりであり、またあくまで協力を呼びかけているものです。また、出社や観光を一律に制限するものでもありません。

と声明を出されていますが、『事実関係は下記のとおりであり』として記された文章には、実際に発表された Special Announcement of COVID-19 on 23 February 2020

Therefore, people traveling from areas with reports of ongoing outbreaks or local transmission including the People’s Republic of China (including Hong Kong Special Administrative Region, the Macau Special Administrative Region of the People’s Republic of China,
Republic of China (Taiwan), Japan, Singapore, the Republic of Korea (South Korea), (a list of countries with report of outbreaks will be announced periodically for people to monitor the situation through the DDC website), are asked to take social responsibility by self-monitoring at least 14 days upon return, avoiding crowded places, avoiding using public transportation, and avoiding sharing personal household items.

日本等の感染エリアからの旅行者は、 14日間は自己観察を行い、人混みを避け、公共交通機関の利用を避けることにより社会的責任を負うことを求められる」と記された内容について、意図的にか、一切触れられていません。

今回の文章の ”both Thai people and foreigners with travel history from affected areas” の対象者に、日本からの観光客が含まれているのか否か、前者であると通常は解釈されますが、タイ国政府観光庁は 3月5日午前0時の段階で web site ではまだ声明を出されていません。

2020年3月8日追記

その後 TAT (Tourism Authority of Thailand) が3月5日付けで「TAT Statement: Thailand elevates COVID-19 control measures to prevent transmission through travellers arriving from disease infected zones」という声明を出しました。

On 5 March, 2020, Thailand announced a list of four COVID-19-affected countries or areas in the Royal Thai Government Gazette; namely, the People’s Republic of China (including Hong Kong and Macao Special Administrative Regions), Republic of Korea, Republic of Italy, and Islamic Republic of Iran.

Special Announcement of COVID-19 on 23 February 2020areas with reports of ongoing outbreaks or local transmission として記された国から、台湾、日本、シンガポールが外れ、イタリアとイランが加わっています。現時点では、4ヶ国(中国、韓国、イタリア、イラン)からの入国者に対する要請となっているようです。

新型コロナウイルス関することを記したものを、綴っています。
→「新型コロナウイルス COVID-19」