ダルバートとは
以前、在日ネパール国大使館の web site では、ダルバートについて以下の様に説明、紹介されていました。
ネパールにおける典型的な食事、それが、ダルバートです。お皿いっぱいに盛り上げた飯米(バート)にレンズ豆で作るスープ(ダル)をつけ、そこにスパイスで様々に調理された野菜(タルカリ)か肉と、漬け物(アチャール)を添えたセットが、ダルバートと総称されるネパールの典型食です。
Boss Nepal の「Eating, Nepali style」の記事では、
Every country has its own distinct cuisine. In the case of Nepal, there are several regional variations, but one dish has come to characterize the country’s cuisine: dal-bhat-tarkari. Dal is a lentil sauce that is eaten with the bhat (rice). Tarkari is a generic name for vegetable curry and can be prepared in different ways according to seasonal availability of vegetables and local preferences. It is often served with achar (pickles) to enhance the taste. Meat curry is also popular, especially on special occasions and festivals.
勝手に訳してみると、
どの国にも、その国の独特の、他の国とは異なる料理があります。ネパールの場合、いくつかの宗教による多様性はありますが、ある一皿がこの国の料理を特徴づけるようになりました。それがダルバートタルカリ dal-bhat-tarkari です。ダル dal はレンズ豆のソースで、バート(ご飯)bhat と一緒に食べます。タルカリ tarkari は野菜カリーの一般的な呼び名であり、季節によって採れる野菜によって、またその地方の好みによって、さまざまな方法で調理されます。しばしばアチャール(漬物)achar が添えられ、味に深みを増します。肉カリーもまた、特別な機会やお祭りの際にはよく供されます。
ネパール料理とインド料理
しかし残念ながら、日本にあるインド・ネパール料理店では、メニューにダルバートを見つけることさえ出来ないこともあります。ネパール料理といっても、普通の日本人にとってはインド料理と区別がつかず、ナンとカレー、タンドール料理のイメージで、オーダーもそれらが中心です。そもそも、北インドの一般家庭にはナンを焼くタンドール窯は無く、日常食べるのは Tawa タワ(鉄板、フライパン)で焼くロティ、チャパティやパロタです。南インドでは米食が中心です。
技能ビザの上陸許可基準、基準省令1号の「料理の調理又は食品の製造に係る技能で外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務に従事する者」に該当するとして、タンドール窯で調理ができる調理人にはビザを発給し、それに関してタンドール窯ブローカーの介在、暗躍もあったという時代背景もあり、主にネパール人が経営するインド・ネパール料理店(インネパ店)でも、ナンとバターチキンカレー、タンドリーチキンといった組み合わせのメニューを定着させてしまいました。商売としても、チャパティ等よりも甘いナンの方が子供さんや女性には受けが良いので、そのナンを巨大化させて他店と差別化といった流れに自然となりました。
東京、名古屋、福岡のダルバート
最近、東京の新大久保周辺、名古屋、福岡などで、ダルバートを供するお店が増えています。周囲にネパール人が比較的多く住んでおり(2018年末に外国人登録をしているネパール人は東京都 27598人、千葉県 6801人、神奈川県 6425人、愛知県 9093人、福岡県 6379人)、来店してくれるのがやはりビジネスとして成り立つ条件の様です。ワンコインダルバートと称して、同胞の若者を支える価格設定がされたりしています。
大阪、兵庫、京都、奈良のダルバート
ネパール人がそれほど多くない、大阪(2018年末に外国人登録をしているネパール人は 3053人)、兵庫、京都、奈良など関西でのダルバートの提供はどうでしょう。ネパール料理に興味を持つ日本人が客層の中心となります。
ダルと一緒にバートを食べ、それに味わいを添えるのがタルカリやアチャールであり、その組み合わせを楽しみ、豆の味を味わいながらご飯を食べるという日常食としてのダルバートでは、その魅力を理解してもらうのは難しいかもしれません。
マス Masu(肉カリー)も本来は、ドライあるいはセミドライタイプで、ダルやタルカリ、アチャールの味を邪魔することなく引き立てるのが理想です(著者の嗜好です)。「カレー」のカテゴリーでダルバートをとらえる人にとっては、マス(肉カリー)がその様なドライあるいはセミドライタイプで供されたり、ダルが辛くなかったりすると、満足してもらえません。汁気の多い Jhol タイプの「辛い」「カレー」が入っていないと認めてもらえず、リピートしてもらえない可能性があります。「ズーズーダゥ jujudhau」さん、「few」さん、「パリワール Pariwar」さん、「ヤク & イエティ Yak & Yeti」さん、既に店を閉じられた「ターメリック Turmeric」さん等では、調理に手間がかかっても、信念を曲げられずに、ドライあるいはセミドライタイプのマスを供されます。カトマンズの有名店のダルバートのマスも最近は諸事情で汁気の多いタイプばかりになってしまったことを、昔をご存じの方々は嘆いておられます。
ネパールの主たる宗教はヒンドゥ教です。良く知られている様に牛肉を食べることは出来ません。あまり知られていませんが、豚肉も多くのカースト、民族では忌み嫌われ、特に年配の方は口にされないようです。よって、マスはチキンかマトン(山羊)に限られ、種類が少なくなってしまいます。お祭りの際は、山羊肉が一番のごちそうです。地方に行けば豚肉を食する習慣のある民族もあります。関西の場合、ポークがダルバートに登場するのは、日本人店主のお店が多い様です。
関西のダルバートの草分けの日本人と言えば「ダルバート食堂」の遼さんですが、最近では「Asian kitchen cafe 百福」さん、「ニタカリバンチャ Nithakali Bhanchha」さん、「ヤタラスパイス Yatara Spice」さん、「メシクウタン? Mesi-kutan?」さんなどでも日本人店主が頑張っておられます。老舗の「亜州食堂 チョウク CHOWK」さんでもダルバートが供されることがあるようですが、まだ頂けてません。
ダルに使われる豆、そしてその組み合わせ、味付け、豆を潰したタイプか、粒感を残したタイプかはお店によって様々です。ダルバートでよく使われる豆の種類は「マメな豆の話 世界の豆食文化をたずねて 吉田よし子著」の記事で書評として記し、まとめています。
マス Mas <Black Gram> ケツルアズキ
ムスロ Musuro <Lentil> レンズマメ
ムング Moong <Green Gram> リョクトウ
ラハル Rahar <Pigeon pea> キマメ
チャナ Chana <Chickpea> ヒヨコマメ
ボリ Bodi <Black eyed peas> ササゲ
シミ Simi <Green beans> インゲン
マスのみの、マスコダルを供されるのが「シュレスタ Shrestha」さんと、「ヴウェチェ(ボエチェ)Bhwa Chhen」さん、ムスロのみが「JahpaL Live ジャーパルライブ」さんです。「ニタカリバンチャ Nithakali Bhanccha」さんはマスとムスロのミックス、「シムラン SIMRAN」さん、「マナカマナ Manakamana」さん、「月と太陽」さんはムスロとムングのミックス、「アカーシュ Akash」さんと「サンチャイ Sanchai」さん、「ナラヤニ Narayani」さんはマス、ムスロ、ムングの 3種類のミックス、「オアシスカフェ The Oasis cafe 桃谷店」さんも同じ 3種類ですが、不定期のスペシャルダルバートの際にラハルとチャナが加わっていました。この 5種類の組み合わせは「シダラタ Siddartha」さんでも頂けます。チャナが使われているのは「パリワール Pariwar」さん、他に「ヤク & イエティ Yak & Yeti」さんがムスロとのミックスで、「few」さん、「Asian kitchen cafe 百福」さん、「barefoot curry ベアフットカリー」さんはマス、ムスロ、ムング、チャナの 4種類のミックスです。ボリを使われるお店もあり「ダナチョガ Dana Choga」さんは、マス、ムスロ、ボリ、チャナのミックスです。「ダルバート食堂」さんはマス、ムスロ、ムング、ラハルのミックスですが、タカリダルバートにシミが供されることがあります。多くの店では、ほぼ固定されている豆の使い方ですが、「ズーズーダゥ jujudhau」さんではマス、ムスロの組み合わせをベースに、豆の種類を変え 3種類から 4種類のミックス、多い時には十数種類を使ったクワンティコジョルが楽しめます。
タルカリやアチャールも、日本とネパールでは採れる野菜が異なりますので、日本でとれる季節の野菜を上手く調理されているお店もいくつかあります。「ズーズーダゥ jujudhau」さんのタルカリ、アチャールに使われる素材や調理方法の多さ、手間のかけ方が特筆されます。普段のダルバートと言うよりは、お祭りやハレの日に家族が集まる際にアマ(母親)が精魂込めて作るダルバートというコンセプトで始まったのが、週末のスペシャルダルバートです。「few」さんは地元の川西で採れる野菜を、タルカリやサグ(青菜炒め)に使われ、「パリワール Pariwar」さんはもはや野菜プレートと言ってもよいくらいの多くの野菜が並びます。逆に、ネパールでも摂れるが、タルカリやアチャールには使わない野菜を使っておられるお店もあります。
ネパール人が経営するインド・ネパール料理店(インネパ店)でも、ダルバートをメニューに載せておられる店も増えましたが、他のナンとのセットに合わせたグレービータイプのカレーや、ダルも同じく豆「カレー」の一皿によく遭遇します。そんなお店の方にある時尋ねてみると「日本人はネパールのカレー(ダル)を食べない。だからこの(グレイビーベースの)カレー(ダル)。」とのことでした。ダルバート用のダルを別に作るのが面倒くさいのは分かりますが、ダルバートを食べたい日本人は、ネパールのダルを食べたいだけです。
ダルバートの「バート」、ごはんに使われる米についての一考察は
→「ダルバートのバートはマスマティ米という意味ではありません」
を、お読みください。
美味しいダルバートに巡り合えるのではと期待し、新しいお店の訪問は続けています。My Map「ダルバート Dal bhat by フクロウの気の向くままに」を作ってみました。2023年1月「関西ダルバートMAP」に名前を変更してみました。こちらも随時更新していきます。
『ダルバート(大阪、兵庫)ネパール料理』では、ダルバートの他、カジャ、サマエバジなどネパール料理に関する記事を、
『ネパール旅行 2017年』、『ネパール旅行 2018年』では、ネパール旅行記をご覧に頂けます。
興味あるネパールの食文化や伝統行事には、関連記事を引用する様にしています。
『大阪で食べるダルバート』を 2017年1月に記し、2018年1月に追記改訂しました。内容も古くなったこともあり、2020年3月に書き直し、2021年2月には My Map を追加しました。2023年1月に関西ダルバートMAPに名前を変更しました。
著者のダルバートに対する好みも含みますが、記事に関連し、開示すべき利益相反関係にあるお店はありません。
下の写真はカトマンズで頂いた中で印象に残っている、「Sundar Bhojanalaya スンダル ボジャナラヤ」さんで頂いたシンプルなダルバートです。追加したチキンは、ドライ~セミドライタイプです。